脊髄性筋萎縮症(SMA)の
お子さんのいらっしゃる松山さん(仮名) の経験
公園遊びで感じた
「もしかして…」
砂場ですぐ立ち上がれない、すべり台の階段が上れない……
2歳のとき、公園で遊ぶ姿を見て違和感を持った
娘の美加(仮名)が歩き始めたのは、生後10ヵ月のときでした。6歳年上の長男が歩き始めたのが1歳2ヵ月で、同じ月齢のお子さんと比べても早いほうだったと思います。ただ、その後の成長はゆっくりで、なかなか走れるようになりませんでした。
はっきりと「何かおかしい」と感じたのは、娘が2歳になってからです。公園の砂場で遊んでいたときに、しゃがんだ姿勢からパッと立ち上がることができなかったのです。他の子どもたちがサッと立ち上がって走っていく中で、娘は地面や自分の膝などに手をついて、体を支えながら立ち上がっていました。
すべり台の階段をうまく上れないことにも違和感を持ちました。同じ月齢の子はもちろん、美加よりも小さな子たちもすいすい上っていくのですが、美加は片足を踏みしめてもう一方の足を持ち上げることが難しいのか、両手で手すりをギュッと握って手の力で体を持ち上げているように見えました。しばらくは私がお尻を持ち上げて押してあげていましたが、いつまでたっても一人で上ることができません。「いつまで押してあげなければならないのだろう」と不安になりました。
走り方が競歩のよう
市の発達健診を受けるも、判定は「異常なし」
娘は知的には問題がありませんでしたが、その後も運動発達に変化が見られなかったため、3歳になる少し前に市役所の子育て支援課へ相談に行き、発育や発達に不安がある人のための発達健診を受けました。病院ではなく市役所に相談したのは、小児科なのか整形外科なのか、どの診療科を受診すれば良いのか分からなかったからです。健診の結果は「異常なし」でした。併せて整形外科を紹介していただいて受診しましたが、骨には異常がないとのことで、「大丈夫、すぐに走れるようになりますよ」と言われました。
5歳になり幼稚園に入園しましたが、相変わらず走ることはできず、本人は走っているつもりでも、私の目には競歩のような動きに見えました。お友達と一緒に机を持って運ぶ場面でも、うまく力を入れられないようでした。
娘の成長への不安は募るばかりで、小児科も行けるところは全て受診しました。子ども発達センターにも相談しましたが、返ってくるのは「問題ない」という答えばかり。体に良いからと勧められてスイミングに通ったり、「運動させていますか?」と言われたので、運動が足りてないのかと思ってたくさん公園に連れて行ったりもしましたが、運動面での成長はみられませんでした。
成長の遅れを理解してもらえない……
再び受けた発達健診を機に、ようやく専門病院へ
専門の医療機関を紹介してもらおうと、あちこちの小児科、整形外科への受診を繰り返すうちに、娘は5歳7ヵ月になりました。紹介状を書いてもらって大きな病院で診てもらいたい、そのためにはどうすればいいかを考えて、市の発達検査を受けることにしました。娘の運動機能を数値化すれば、成長の遅れを分かってもらえるのではないかと思ったのです。予約を入れるために電話すると、保健師さんからは「お母さんの話を聞く限り問題はなさそうだから、発達検査は受けなくてもいいですよ」と言われましたが、どうしても検査を受けたいとお願いしました。
検査の結果、娘の運動機能は1、2歳と判定されました。検査に付き添ってくださった地区担当の保健師さんからは、まず療育を受けるよう勧められたのですが、私が求めていたのは、娘の体の中で何が起きているのかを知るために専門の病院で診察を受けることです。専門病院を受診するには紹介状が必要なので、紹介状を書いてもらうために3歳になる前に受けた発達健診をもう一度受けました。このとき地区担当の保健師さんが積極的に動いてくださり、紹介状を受け取ってからはスムーズに専門病院を受診することができました。
その後、検査入院を経て脊髄性筋萎縮症(SMA)と確定診断されました。娘は5歳11ヵ月になっていました。
小学3年生の今、ランドセルを背負い元気に登校
できないことにとらわれず、毎日を楽しんで過ごしてほしい
今、娘は9歳、小学3年生です(2022年5月現在)。ランドセルを背負い、毎日元気に登校しています。確定診断後から治療とリハビリテーションを継続していて、日常生活はほぼ不自由なく過ごせています。ただ、友達のようには走れないなど、娘なりに感じていることはあると思います。今はお友達に病気のことは話していないようですが、必要な時期になれば、「ここまでは自分でできるけど、ここからは手伝ってほしい」と、自分から発信できるようになってほしいと思っています。
これからも治療やリハビリテーションを続け、運動機能を維持していくことが大切だと思いますが、その一方で、できないことがあってもあまり悩まないでほしいとも思っています。できないことばかりに目を向けずに、その日そのときを楽しんで過ごしてほしいですし、そのためにも精神的に強く、タフに成長してくれることを願っています。