デュシェンヌ型筋ジストロフィーの
お子さんがいらっしゃる沢口さん(仮名)の体験談
階段の上り方で感じた
「もしかして…」
6歳で階段をスムーズに上れない
骨や関節の異常を疑い、整形外科を受診
初めて「おかしい」と感じたのは、息子の海斗(仮名)が6歳、保育園の年長のときです。当時住んでいた家は玄関まで外階段を上っていくタイプだったのですが、ある日、海斗がその階段を上っている途中で片足を上げたときに、後ろ向きに倒れて落ちてしまったのです。
その日は海斗が背負っていたリュックがいつもより重かったのですが、それでも片足で体を支えきれなかったことに違和感を覚えました。それに、倒れた後も自力で起き上がれなかったので、「足の骨や関節に何か問題があるのかもしれない」と思いました。すぐに近くの整形外科クリニックに連れて行きましたが問題はなく、「少し足首をひねったのかもしれませんね」と言われて終わりました。
このときまで、海斗の運動発達に問題があると感じたことは一度もありませんでした。普段の公園遊びでは、ジャングルジムに登ったり、鉄棒で回ったり懸垂したりと、活発に動き回っていました。保育園でのリズム運動も、スキップもできていましたし、スイミングスクールでもすいすい泳いでいました。保育園の運動会のかけっこでの様子を見て、「走るのが遅いな」とは思っていましたが、極端に引き離されることはなく、気になるほどではなかったです。走る以外には雑巾がうまく絞れなかったのですが、それも「握力が弱いんだな」としか捉えていませんでした。
ですが、階段から落ちたことをきっかけに改めて思い返してみると、海斗は以前から家の外階段は一段ずつ両足をそろえて上っていました。ただ、他の階段は手すりに手を添えてトントンと片足ずつ交互に上っていましたから、家の外階段には手すりがなく、段差も15~20cm程度で子どもにとっては高いからだろうと、気にしていなかったのです。
その後、しばらく様子を見ていたのですが、階段がスムーズに上れないことがどうしても気になって、かかりつけの小児科の先生に相談に行きました。小児科の先生は「心配ないと思いますが、お母さんが気になるのなら」と、総合病院の整形外科を紹介してくださいました。
小学校入学直前に確定診断
息子さんの「でも僕、頑張る」の言葉で前向きに
総合病院の整形外科では、レントゲン検査と階段の上り下りのチェックを受けました。病院のテストで使う階段は段差が低く、息子は普通に上り下りできてしまったので、先生には「ちゃんと上り下りできていますし、レントゲンでも異常はありません」と言われました。ですが、「家の階段はこんなにスムーズに上れません」と訴えて、小児病院を紹介していただきました。このときは、小学校入学前にきちんと診察してもらいたい、もし足の骨や関節に問題があるのなら入学前に治しておきたいという気持ちでいっぱいでした。
小児病院で海斗の症状を説明すると、すぐに「疑わしい病気がいくつかあるので、検査しましょう」と言われました。血液検査の結果、筋ジストロフィーの疑いがあるとのことで遺伝子検査のできる別の病院を紹介され、そちらでデュシェンヌ型筋ジストロフィーだと確定診断されました。小学校入学の3ヵ月ほど前だったと思います。
疑いありと告げられるまで、この病気を全く知りませんでした。待合室でインターネット検索したら、出てくるのはネガティブな情報ばかり。涙があふれそうになりましたが、隣に座っている息子に気づかれないように必死で我慢しました。どうしよう、これからどうなるのだろうという不安感が押し寄せてきて、そのときどうやって家に帰ったのか、覚えていないくらい動揺していました。その後も色のない世界で暮らしているような感覚で、この頃のことはほとんど記憶にありません。海斗と同じ年頃の元気な男の子を見るのがつらくて、家に閉じこもっていたような気がします。
それでも、いつまでも病気のことを隠しておけないと思い、主人と相談して息子に話しました。息子は自分なりにしっかりと病気を受け止め、「でも僕、頑張る」と言ってくれました。その言葉を聞いて、ようやく私も「海斗と一緒に頑張ろう」と、前を向くことができました。
中学校には徒歩で通学
将来は自分がなりたいものになってほしい
海斗は14歳、中学3年生になりました(2022年6月時点)。小学生のときは階段も手すりがあれば普通に上っていましたが、最近は段差の低い階段でなければ上れなくなってきました。歩くスピードも遅くなり、友達に置いていかれることが多いようですが、徒歩で通学できています。ただ、風の強い日は「足元がふらついて怖い」と言うので、私が車で送迎しています。
もう14歳なので、病気のことは自分でも調べていると思います。今はまだ私の心の準備ができていなくて、将来について真剣に話し合ったことはありません。ですが、自分の体のことは本人が一番よく分かっていると思うので、「自分がやってみたいと思えばチャレンジして、怖くてやりたくないならやらなくてもいいよ」と言っていて、基本的には何でも自分で判断させるようにしています。
運動が自由にできない代わりに、ゲームやパソコン、英語の勉強を小学校低学年からやり始めました。そういったツールをうまく使って、海斗自身がなりたいものになってほしいと思っています。